唐辛子と鷹の爪とししとうの違いを、国の作物区分から確かめた
スーパーの袋に「鷹の爪」と書いてあり、別の棚には「唐辛子」と書いてある。青果コーナーには「ししとう」と「青唐辛子」が隣り合って並び、東北の道の駅では同じものが「なんばん」と呼ばれている。名前が四つも五つもあって、どれが品種名でどれが総称なのかが分からない。唐辛子の種類を調べ始めた人がまず詰まるのは、たぶんここです。
この記事では、辛さの順番を並べる前に、呼び名の整理を先に片づけます。手がかりにしたのは、農薬を登録するときに使われる国の作物分類表と、農林水産省の登録品種データベースです。どちらも唐辛子を売るために作られた資料ではないぶん、「国はししとうと唐辛子を同じものとして扱っているのか」という問いに、立場抜きで答えてくれます。
そのうえで、辛さの数値がどう測られているのか、日本の在来の唐辛子がどこから来たのか、そして国内でどれだけ穫れているのかまでを並べます。乾燥野菜の受託加工をしている立場から、乾かして粉にしたときに何が変わるかも最後に書き添えました。
唐辛子と鷹の爪とししとうは何がどう違うのか
先に結論から書きます。混乱の原因は、ひとつの言葉のなかに性質のちがう三種類の呼び名が混ざっていることです。植物全体を指す総称、品種そのものの名前、そして熟し方の段階を指す言葉。この三つを分けて並べ直すと、たいていの疑問はその場で片づきます。
「唐辛子」は植物の総称で、鷹の爪はそのなかの品種名
唐辛子はナス科トウガラシ属の植物で、ピーマンもパプリカもししとうもManganji togarashiも、植物としては同じ仲間に入ります。つまり「唐辛子」は、辛いものだけを指す言葉ではありません。
一方の鷹の爪は、そのなかの品種の名前です。Driedした赤い小さな唐辛子をまとめて鷹の爪と呼ぶ場面が多いので、唐辛子の別名だと思われがちですが、包含関係としては唐辛子のほうが広く、鷹の爪はそのなかに含まれます。「鷹の爪と唐辛子どちらが辛いか」という問いは、「りんごと果物のどちらが甘いか」と聞いているのと同じ形になってしまいます。
青唐辛子は品種名ではなく、収穫のタイミングを指す言い方
青唐辛子は、赤く熟す前の緑の段階で穫ったものを指します。同じ株の同じ実でも、緑のうちに穫れば青唐辛子、赤くなるまで置けば赤唐辛子です。品種のちがいではなく、収穫の時期のちがいを言っています。
ここが「ししとうと青唐辛子の違い」がややこしくなる原因です。ししとうは品種の側の言葉、青唐辛子は熟し方の側の言葉なので、そもそも同じ軸で比べられません。緑のししとうを青唐辛子と呼ぶ人もいれば、辛い品種の未熟果だけを青唐辛子と呼ぶ人もいて、どちらも間違いとは言い切れない状態になっています。
呼び名を一覧にすると、二つの軸で片づく
よく並べて比べられる七つの言葉を、「品種の側の言葉なのか、熟し方の側の言葉なのか」「辛いのか辛くないのか」で整理しました。
| 呼び名 | どの軸の 言葉か | Heat | 中身の説明 |
|---|---|---|---|
| Chili pepper | collective term | 辛いものも 辛くないものも | ナス科トウガラシ属の 植物ぜんぶを指す。 ピーマンも含む |
| Takanotsume | 品種・系統 | Hot | 細長く小ぶりな 辛味種の名前。 乾燥品の 代名詞になった |
| Shishito | Variety | 基本は Not spicy | 獅子唐辛子の略。 辛味が出ない側に 育てられた品種 |
| 青唐辛子 | 熟し方 | 品種による | 赤くなる前に 穫ったもの。 品種名ではない |
| なんばん なんば | 地方名 | 多くは辛い | 東北や北陸で 唐辛子を指す呼び方。 地域で綴りが変わる |
| green pepper | 品種群 | Not spicy | 同じ属の甘味種。 果肉を食べる 大きめの実 |
| Yellow and an earthy aroma | 品種群 | Not spicy | ピーマンの仲間で 果肉が厚く、 完熟させて色を出す |
表にすると、比べているものがそろっていないのが見えます。鷹の爪とししとうは品種どうしなので比較できますが、青唐辛子だけは別の軸にいます。なんばんは地域ごとの呼び方なので、品種を特定する言葉ですらありません。
見た目だけで品種を当てるのは、慣れた人でも難しいところがあります。細長い緑の実という条件だけなら、ししとうにも、甘長系の品種にも、辛味種の未熟果にも当てはまってしまうからです。確実なのは、袋や名札に書かれた品種名を読むことです。「ししとう」「伏見甘長」「万願寺」と書いてあれば辛くない側、「青唐辛子」「島とうがらし」とあれば辛い側の可能性が高くなります。
国の作物区分では、ししとうととうがらしは別々に立っている
ここからは資料に当たります。農薬を登録するときに使う作物分類表という資料があり、どの野菜をどのグループに入れるかが決められています。食べる側のための資料ではないぶん、線の引き方が明確です。
「ピーマン及びとうがらし類」は八つの作物名に分かれている
この表では、なす科果菜類のなかに「ピーマン及びとうがらし類」という中グループが置かれ、そのなかに八つの作物名が並んでいます。並び順も含めて書き出すと次のようになります。
| 作物名 | 別名・地方名・ 品種名等の例 | 備考欄の記載 |
|---|---|---|
| 甘長とうがらし | 伏見とうがらし、 Manganji togarashi, , Shogoin daikon, and Kujo green onion suit drying. Ones not too high in moisture, with firm fibers, are suitable. Kamo nasu can also be dried if thinly sliced, but thick slices dry poorly, so take care. 三宝とうがらし、 Himo togarashi | 果実を収穫するもの。 未成熟の状態で 利用する甘味種。 |
| かぐらなんばん | (記載なし) | 果実を収穫するもの |
| きだちとうがらし | (記載なし) | 果実を収穫するもの |
| Shishito | ししとうがらし、 獅子唐、葵ししとう | 果実を収穫するもの |
| とうがらし | 鷹の爪、八房、 日光とうがらし、 札幌大長とうがらし | 果実を収穫するもの。 未成熟の状態で、 あるいは完熟させて 利用する辛味種。 |
| Habanero | (記載なし) | 果実を収穫するもの |
| green pepper | 大獅子、 カリフォルニアワンダー、 カラーピーマン、 オランダパプリカ | 果実を収穫するもの |
| ピカンテ | (記載なし) | 果実を収穫するもの |
甘味種と辛味種が、備考欄で書き分けられている
注目したいのは備考欄です。甘長とうがらしには「未成熟の状態で利用する甘味種」、とうがらしには「未成熟の状態で、あるいは完熟させて利用する辛味種」と書かれています。甘味種か辛味種かという区別が、公的な分類の文言としてはっきり書き込まれているわけです。
そして甘長とうがらしの別名欄に並ぶのが、伏見とうがらし、万願寺とうがらし、三宝とうがらし、ひもとうがらし。とうがらしの別名欄に並ぶのが、鷹の爪、八房、日光とうがらし、札幌大長とうがらしです。日本でよく名前を聞く品種が、甘味種側と辛味種側にきれいに振り分けられています。
ししとうは、甘長ともとうがらしとも別の名前で並んでいる
ここがこの記事でいちばん伝えたい一点です。ししとうは、甘長とうがらしの別名欄に入っていません。とうがらしの別名欄にも入っていません。独立した作物名として、自分の行を持って並んでいます。
つまり国の区分では、ししとうは甘長とうがらしの一種でもなければ、辛味種のとうがらしの一種でもない、別枠の扱いです。「ししとうと青唐辛子は同じものか」という問いに対して、少なくとも作物の区分という観点からは「同じ行には入っていない」というのが答えになります。かぐらなんばん、きだちとうがらし、ハバネロ、ピカンテも同じように独立した行を持っています。
同じ表のなかで、葉菜類のほうにも唐辛子が出てきます。「とうがらし(葉)」という作物名があり、備考欄には「葉を収穫するもの」とだけ書かれています。葉唐辛子として佃煮にするあれです。同じ植物でも、実を穫るのか葉を穫るのかで別の作物として扱われます。
鷹の爪は品種の名前なのか、形の呼び名なのか
鷹の爪をめぐる説明は、資料によって少しずつ食い違います。ひとつの品種名だと書くものもあれば、細長い唐辛子の総称だと書くものもある。どちらが正しいのかを、公的な記録から確かめました。
品種登録の記録に「鷹の爪群」という言葉が残っている
農林水産省の登録品種データベースに、1985年に登録された「サン鷹の爪」という品種があります。香辛料メーカーが出願したもので、特性の概要にはこう書かれています。「この品種は、鷹の爪群の在来品種から系統分離法により優良系統の選抜を重ねて育成された固定品種で、辛味が強く、香辛料としての適性に優れている」。
そして区別性の説明では、対照品種として「鷹の爪」が挙げられ、「一果当たり種子数が多いこと、辛味の程度が強いこと等で区別性が認められる」とされています。つまり審査の場では、鷹の爪は実在する在来品種として扱われ、なおかつ「鷹の爪群」というまとまりの名前としても使われていました。この品種の育成者権は15年の存続期間を終えて2000年に消滅しています。
いまも新しい品種の比べる相手として使われている
鷹の爪が比較の基準になっているのは昔の話ではありません。2016年に登録された「八幡屋礒五郎M-1」という品種では、対照品種として「鷹の爪」と「カリフォルニアワンダー」の二つが挙げられ、鷹の爪と比べたときの区別点が書かれています。三十年以上あいだが空いても、同じ名前が物差しとして使われ続けているわけです。
売り場では、形とサイズの呼び名としても使われている
いっぽうで、香辛料メーカーの商品解説には、鷹の爪はもともと一品種の名前だったが、現在は長さ五センチから七センチ、幅一センチほどの小ぶりな唐辛子をまるごと乾燥させた形態の商品を指す呼び方として使われるのが一般的だ、という趣旨の説明があります。売り場では品種名から規格名へ、意味がずれてきたということです。
整理すると、鷹の爪という言葉には二つの顔があります。ひとつは品種登録の書類に出てくる在来品種としての鷹の爪。もうひとつは、乾燥ホールの形とサイズを指す売り場の呼び名としての鷹の爪。袋に「鷹の爪」と書いてあるとき、どちらの意味で使われているかは書いた人しか分かりません。
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ししとうがときどき辛いのは何が起きているのか
ししとうを食べていて一本だけ強烈に辛いものに当たる。あの現象には、品種の側の事情と、育った環境の側の事情が両方関わっています。
辛くなる素質があるかどうかが、まず先にある
ニューメキシコ州立大学の普及資料に、唐辛子の辛さの測り方をまとめたガイドがあります。そこには、辛さは植物の遺伝と、植物が環境から受ける影響との掛け算で決まる、と書かれています。育種家は遺伝のほうで辛さの水準をある程度決められるけれど、気温や水などの環境要因がその水準を上下させる、という説明です。
大事なのはそのあとで、遺伝的に辛くならない品種は、畑でストレスを受けても辛い実を付けない、と明記されています。つまり辛くなる素質を持っている品種だけが、条件によって辛くなる。ししとうで辛い実が混じるのは、素質のほうは残っているということになります。
品種登録の書類にも「条件で発現」と書かれている
この話は日本の公的な記録とも合います。京都府が育成した「京都万願寺1号」という品種の特性欄には、果の辛味の発現について「条件で発現」と書かれています。辛味が「有る」でも「無い」でもなく、条件しだいで出る、という第三の選択肢が審査項目として用意されているわけです。
いっぽうで高知県が育成した「ししほまれ」の特性欄には、辛味の発現は「無」と書かれています。同じししとうの系統でも、書類のうえで辛味の出方が書き分けられています。
見分け方として言われていることには、裏付けが見当たらない
辛いししとうの見分け方として、形がいびつなもの、種が少ないもの、皮に光沢がないものを避けるとよい、という説明をよく見かけます。十本に一本は辛い、という数字も広く出回っています。
ただ、これらの数字や見分け方の出どころを探しても、試験機関や自治体の公表資料にはたどり着けませんでした。書いてあるページはどれも出典を示していません。経験則としては当たっている可能性もありますが、この記事では確かめられなかったこととして扱い、数値は書かないでおきます。買う前に確実に避ける方法は、いまのところ品種名を見ることくらいです。
唐辛子の辛さは、何をどう測った数字なのか
辛さの目安としてスコヴィル値という数字が出回っています。ただ、同じ品種でもページによって数値が大きく違い、出典が書かれていないことがほとんどです。そもそもどうやって測っている数字なのかから確かめます。
もとは、辛さが消えるまで薄めた倍率だった
ニューメキシコ州立大学の普及ガイドによれば、スコヴィル官能試験は、唐辛子の辛さを測るために使われた最初の実験室的な方法でした。人が試料を口に含み、辛さが感じられなくなるまで希釈していく。その希釈の一単位がスコヴィル熱単位、つまりSHUです。
この方法は「かじって確かめる」よりは正確ですが、測る人の感覚に左右されるという限界があり、一人の試験者が一定時間内に扱える試料の数にも限りがある、と同じガイドは書いています。数字の出どころが人の舌だった、ということです。
いまは機械で量って換算するのが主流
同じガイドは、もっとも正確な方法は高速液体クロマトグラフィー、いわゆるHPLCだとしています。果実を乾かして挽き、辛さのもとになる成分を抽出して機器にかける。費用はかかるものの客観的な結果が得られ、短時間に多くの試料を扱えます。同大学の育種プログラムでは五千点を超える試料をこの方法で分析してきた、と書かれています。
そして、この分野で業界が受け入れている手順を公表しているのはアメリカ・スパイス貿易協会だ、とも明記されています。つまり現在出回っているスコヴィル値の多くは、舌で測った値そのものではなく、機器で量った値を換算したものです。
世界一辛い唐辛子の記録について、ギネス世界記録の記録規定を読むと、この記録はスコヴィル熱単位とアメリカ・スパイス貿易協会の辛味単位の両方で計測する、と書かれています。栽培された一本の実の辛さにもとづく記録で、種は対象外だとも定められています。
ただし同じページには、記録は日々更新されるためオンラインではすぐに公開されない、とも書かれていて、現在の保持者と数値はそこでは確認できませんでした。世界一の数値として流通している数字が資料ごとに食い違うのは、おそらくこのあたりが理由です。この記事では、確かめられない数値は書かないことにしました。
同じ品種でも辛さに幅が出るのは、はじめから分かっている
先ほどの普及ガイドには、辛さの水準を低く育種した品種でも、畑で何らかのストレスにさらされると辛くなる、逆に辛い品種でも生育条件が良ければ中程度の辛さにとどまる、と書かれています。予想どおりの辛さの唐辛子を作るには、品種選びと、ストレスのない栽培条件の両方が要る、という結論です。
だから「この品種は何SHU」という一点の数字は、本来かなり幅のある話を一点に丸めたものです。原料として辛さの安定を求めるなら、品種名だけでなく産地と作柄まで見ないと意味がありません。
日本の公的な書類では、辛さは数値ではなく段階で書かれる
ここが日本の資料の特徴です。登録品種データベースの特性欄を読むと、辛さは数値ではなく段階で記録されています。さきほどの「サン鷹の爪」では「辛味の程度は強」、「ししほまれ」では「辛味の発現は無」、「京都万願寺1号」では「条件で発現」。作物分類表のほうも、甘味種か辛味種かという二分法です。
国内の公的資料をひととおり当たった範囲では、鷹の爪やししとうのスコヴィル値を数字で示した公表資料は見つかりませんでした。ネット上で見かける国内品種のSHUは、出どころが書かれていないものがほとんどです。
辛い順に並べると、どの品種がどこに来るのか
以上を踏まえて、辛い順に並べ直します。数値を書ける段だけ数値を書き、書けない段は公的資料の区分と表現をそのまま使います。出どころのない数字で埋めるよりは、そのほうが役に立つはずです。
辛くない側にいるのは甘味種と、辛味が出ない品種
いちばん下の段にいるのは、作物分類表で甘味種とされる甘長とうがらしの仲間、つまり伏見とうがらし、万願寺とうがらし、三宝とうがらし、ひもとうがらし。それにピーマンとパプリカ、そして辛味の発現が「無」と記録されているししとうの品種が並びます。京都の甘長については、Manganji togarashi and Fushimi togarashiでそれぞれ詳しく書いています。
次の段が、素質としては辛味を持っていて、条件しだいで出るものです。品種登録の特性欄で「条件で発現」と書かれているものがここに入ります。売り場のししとうで辛い実に当たるのは、この段のものを引いたときです。
日本の辛味種は、資料では段階でしか語られない
作物分類表が辛味種の例として挙げているのは、鷹の爪、八房、日光とうがらし、札幌大長とうがらしの四つです。三鷹や本鷹といった名前はこの表には出てきませんが、品種登録の書類のほうでは「辛味の程度は強」といった段階で辛さが記録されています。いずれにしても、数値で語る公的資料は見当たりません。
激辛品種だけは、大学が実測した値が公表されている
いっぽう激辛と呼ばれる品種については、ニューメキシコ州立大学のチリ・ペッパー研究所が、自分たちが試験した品種の辛さを公表しています。実測値として出どころがはっきりしている、数少ない数字です。
| 段 | あてはまる 品種・分類 | 辛さの根拠 | 出どころ |
|---|---|---|---|
| 1 | ピーマン、パプリカ、 甘長とうがらし、 ししとうの一部 | 甘味種/ 辛味の発現は「無」 | 作物分類表と 登録品種データベース |
| 2 | 条件で辛味が出る 甘長・ししとうの系統 | 辛味の発現は 「条件で発現」 | 登録品種データベース |
| 3 | 鷹の爪、八房、 日光とうがらし、 札幌大長とうがらし | 辛味種/ 辛味の程度は「強」 | 作物分類表と 登録品種データベース |
| 4 | ロコト | 175,000 SHU | チリ・ペッパー 研究所の試験値 |
| 5 | オレンジ・ハバネロ | 250,000 SHU | Same as above |
| 6 | スコッチ・ボネット | 350,000 SHU | Same as above |
| 7 | レッド・サビナ・ Habanero | 500,000 SHU | Same as above |
| 8 | チョコレート・ Habanero | 700,000 SHU | Same as above |
| 9 | Bhut Jolokia | 1,000,000 SHU | Same as above |
| 10 | トリニダード・ スコーピオン | 1,500,000 SHU | Same as above |
| 11 | チョコレート・ セブンポット | 1,800,000 SHU | Same as above |
| 12 | トリニダード・ モルガ・ スコーピオン | 2,000,000 SHU | Same as above |
四段目から下の数値は、その研究所が実際に試験した品種の値として公表されているものです。ただし前の章で見たとおり、同じ品種でも育った条件で辛さは動きます。表の数値は順序を把握するための目安として読んでください。一段目から三段目については、数値を当てはめられる公的資料が見つからなかったため、区分と段階の表現をそのまま載せています。
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品種登録の記録に残っている日本の唐辛子
唐辛子の品種が公的にどれだけ登録されているのか。登録品種データベースから、トウガラシ属に分類される出願を全件抜き出して数えました。
トウガラシ属の出願は111件、登録に至ったのは101件
農林水産植物の種類がCapsicumとされている出願は、取り下げや拒絶になったものも含めて111件でした。このうち登録番号が付いているのが101件、残り10件は取り下げか拒絶です。育成者権がいまも消滅していないものは41件です。
ちなみに登録品種データベースの植物の種類一覧には、トウガラシ属(Capsicum L.)、トウガラシ種(Capsicum annuum L.)、カプシクム キネンセ種(Capsicum chinense Jacq.)の三つが立てられています。属のレベルと種のレベルの見出しが混在しているので、件数を数えるときは属でまとめて拾う必要があります。
登録の多くは台木とピーマンで、辛い唐辛子は少ない
101件の品種名を並べてみると、「台パワー」「みやざき台木1号」から5号、「台ちから」「L4台パワー」「台パワーZ」「台ひなた」のように、名前からして接ぎ木用の台木と分かるものが十件近くあります。「ベルホマレ」「ベルホープ」「カリフォルニアワンダー」系の名前も目立ちます。名前だけで用途を断定はできませんが、辛味種らしい名前は数えるほどしかありません。
これは、あとで見る生産統計の姿とも合っています。国内で品種改良の手間が向いてきたのは、辛い唐辛子よりも果肉を食べる側だった、と読めます。
七味の老舗が自社で品種を登録している
登録者の顔ぶれで目を引くのが、長野のShichimi唐辛子の老舗です。2016年に「八幡屋礒五郎M-1」、2025年に「八幡屋礒五郎M-2」が登録されていて、どちらも育成者権が生きています。育成者の欄には大学の研究者の名前も並んでいます。
M-1の区別性の説明では対照品種が「鷹の爪」と「カリフォルニアワンダー」、M-2では「やまと紅(M型)とうがらし」です。香辛料を売る側が、自分たちの商品に合う唐辛子を自分たちで育てて登録している。これが十年近く続いているのは、原料を扱う立場から見るとかなり重い事実です。
公的機関では、京都府、高知県、和歌山県、宮崎県、長野県などが登録者に名を連ねています。高知県はししとう系の育成が目立ち、和歌山県は2025年に「ししわかまる」を登録しました。香辛料メーカーの側では、1985年の「サン鷹の爪」から2000年の「SB竜ノ爪」「SB陽角」、2004年の「SBカプマックス」まで、辛味種の登録が続いています。
| Variety name | 登録者 | 登録年 | 記録から読める内容 |
|---|---|---|---|
| サン鷹の爪 | 香辛料メーカー | 1985年 | 鷹の爪群の在来種を 選抜した固定品種。 辛味の程度は「強」 |
| ししほまれ | Kochi Prefecture | 1991年 | ししとう中型系 との交配。 辛味の発現は「無」 |
| 京都万願寺1号 | Kyoto Prefecture | 2007年 | 舞鶴市在来の 万願寺から選抜。 辛味は「条件で発現」 |
| 京都万願寺2号 | Kyoto Prefecture | 2011 | 1号より細長い。 GI登録の対象品種。 育成者権は存続中 |
| 八幡屋礒五郎M-1 | 七味の老舗 | 2016年 | 対照品種は鷹の爪と カリフォルニアワンダー |
| 八幡屋礒五郎M-2 | 七味の老舗 | 2025年 | 対照品種は やまと紅とうがらし |
| ししわかまる | Wakayama Prefecture | 2025年 | 対照品種は 紀州ししとう1号 |
なんばんと呼ばれてきた唐辛子は、どこから来たのか
「ししとうとなんばんの違い」を調べている人がいるのは、地域によって唐辛子の呼び方が変わるからです。呼び名が変われば別の野菜だと思うのが自然で、実際には同じ植物を指していることがよくあります。そして呼び名ごと今日まで残ってきた在来の唐辛子には、書類として来歴が確かめられるものがあります。
東北から北陸では、唐辛子そのものを「ナンバ」と呼ぶ
青森県の清水森ナンバは、地理的表示保護制度に登録されている唐辛子です。その明細書には、地区名の清水森に「東北地方でトウガラシを表すナンバ」を加えて名付けた、とはっきり書かれています。ナンバは品種名ではなく、その地域で唐辛子そのものを指す言葉だったわけです。南蛮渡来の作物という意味の「南蛮」が縮まった呼び方だと説明されることが多く、東北から北陸にかけて、なんばん、なんば、なんばと少しずつ形を変えながら使われてきました。
地方名がどれだけ定着しているかは、さきほどの作物分類表を見ると分かります。新潟の「かぐらなんばん」は、別名や品種名の例としてではなく、ひとつの作物名として独立した行を持っています。神楽面に似た形から名付けられたとされる唐辛子ですが、地方名がそのまま国の資料の見出しになっているわけです。同じ表のとうがらしの別名欄には「札幌大長とうがらし」があり、北海道でよく使われる呼び方は札幌大長なんばん。こちらも呼び名の揺れがそのまま残っています。
その札幌大長なんばんについては、JAさっぽろが札幌黄、札幌大球、サッポロミドリ、札幌白ゴボウとともに札幌伝統野菜として扱っています。明治中期に岩手県南部地方から導入された種が北海道の気候と風土に適するように変化を遂げた品種で、12センチほどに育ち、熟すと濃紅色になるが緑色のものが出荷される、とされています。郷土料理の三升漬の材料です。
江戸では「蕃椒」と書いて、とうがらしと読ませていた
東京の内藤とうがらしについて、JA東京中央会が公表している解説には、文化七年から文政八年にかけて編まれた新編武蔵風土記稿に「世に内藤蕃椒(とうがらし)と呼べり」と紹介された、と書かれています。蕃椒という表記が使われていたわけです。品種は実の大きな八房とうがらしだったとされ、内藤家の屋敷、のちの新宿御苑にあたる一帯とその周辺で盛んに作られていました。同じ解説では「内藤とうがらし」はNPO法人が保有する地域団体商標だとも書かれています。
ここから先は、自治体やJAが公表している資料と、地理的表示保護制度の明細書で来歴が確かめられる在来品種を並べます。言い伝えではなく書類として残っているものだけを選びました。
清水森ナンバは、種が一般に売られていない
青森県弘前市周辺の清水森ナンバは、2020年に地理的表示第105号として登録されました。明細書には、辛味品種の伏見群に属し、大長型で、大きいものでは長さが20センチを超え、肩部が張った独特な果形が特徴だと書かれています。伏見群という系統名が公的な書類に出てくる、数少ない例です。
来歴の記述も具体的です。およそ400年前に弘前藩初代藩主の津軽為信が京都から持ち帰り、弘前の農家が栽培したのが始まりと言い伝えられている。昭和30年代から40年代の最盛期には約10ヘクタールが作付けされていたが、安価な輸入品の影響で激減し、平成10年から15年頃には清水森地区の一戸を残すのみとなった。その後、産官学連携の研究会が設立され、令和2年の時点で生産者61戸、生産面積約69アール、年間生産量約18トンまで戻っています。
注目すべきは管理の仕方で、種子の一般販売は行わず、生産者による自家採種も禁止しています。誰でも育てられる品種ではありません。
香川本鷹は、種苗を県外に持ち出せない
香川県が公表している香川本鷹のページには、種苗を購入できるのは香川県内で栽培する人に限る、と書かれています。条件は四つで、栽培は香川県内で行い種苗を県外に持ち出さないこと、自らの栽培に供する自家採種は認められること、自家採種由来の種苗を有償無償を問わず第三者に譲渡しないこと、生産物を販売する際は「香川本鷹」と表示するよう努めること。清水森ナンバと同じく、産地が種を握っています。
なお、塩飽水軍が豊臣秀吉から拝領したという来歴や、約400年という年数は複数の媒体で紹介されていますが、香川県の当該ページには書かれていませんでした。この記事では県の資料で確認できた範囲にとどめます。
万願寺甘とうは、使える品種が二つに限られている
京都の万願寺甘とうは、2017年に地理的表示第37号として登録されています。明細書を読むと、名前についての記述がまず目を引きます。「万願寺甘とう」という名称は、舞鶴市が原産の「万願寺とうがらし」の出荷名として平成元年に命名されたものだ、と書かれています。
使える品種も限定されています。舞鶴市内で栽培されていた在来種の万願寺とうがらしと、京都府がその在来種の辛みを抑えて育成した「京都万願寺2号」の二つだけ。出荷規格は長さ10センチから23センチで、肩部のくびれとやや湾曲した果形であるものを選別する、と決められています。
そのうえで明細書は、商品名「万願寺とうがらし」として流通しているものには種苗会社が販売する大型とうがらし品種などがある、とも書いています。店頭で「万願寺とうがらし」と書かれていても、GIの万願寺甘とうとは限らない、ということです。誕生の経緯については、Fushimi togarashiと海外の品種との自然交雑によるものと考えられている、と記されています。品種そのものの味や食べ方はManganji togarashiのほうにまとめてあります。
| Variety | Region | 公的な位置づけ | 種や栽培の しばり |
|---|---|---|---|
| 清水森ナンバ | Aomori Prefecture 弘前市ほか | 地理的表示 第105号 (2020年登録) | 種子の一般販売なし。 自家採種も禁止 |
| 万願寺甘とう | Kyoto Prefecture 綾部・舞鶴・ 福知山 | 地理的表示 第37号 (2017年登録) | 在来種と 京都万願寺2号 の二品種のみ |
| Kagawa hontaka | Kagawa Prefecture | 県が種苗の 取扱条件を 公表 | 県内栽培に限る。 種苗の県外 持ち出し不可 |
| 札幌大長 なんばん | Hokkaido 札幌市 | JAが札幌伝統 野菜として 栽培・普及 | 明記なし |
| Naito togarashi | Tokyo 新宿区周辺 | NPO法人の 地域団体商標 | 明記なし |
| かぐらなんばん | Niigata Prefecture | 作物分類表に 独立した 作物名として掲載 | 明記なし |
唐辛子は日本でどれだけ穫れているのか
品種の話をひととおり終えたところで、数量の話をします。ここは調べてみて、いちばん印象が変わった部分でした。
辛味種の作付面積は全国で68ヘクタール
農林水産省の地域特産野菜生産状況調査という統計があり、そこに「とうがらし(辛味種)」という品目が立っています。令和6年産の数字は、全国の作付面積が68ヘクタール、10アール当たり収量が334キログラム、収穫量が227トン、出荷量が212トンでした。令和4年産と比べると、作付面積は86パーセント、収穫量は96パーセントです。
227トンという数字がどれくらいかというと、同じ調査でパプリカは作付面積77ヘクタールで収穫量7,820トンです。面積はほぼ同じなのに、収穫量は三十倍以上の開きがあります。辛味種は実が小さく乾燥して使うものが多いので単純比較はできませんが、国産の辛い唐辛子が量としてかなり細いことは読み取れます。
収穫量が多いのは大分、京都、千葉
同じ統計の都道府県別を見ると、分布にも特徴があります。
| 順 | 都道府県 | 作付面積 (ha) | 収穫量 (t) | 出荷量 (t) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Oita | 9 | 56 | 56 |
| 2 | Kyoto | 5 | 35 | 35 |
| 3 | 千葉 | 6 | 22 | 22 |
| 4 | Aomori | 1 | 13 | 8 |
| 4 | 栃木 | 9 | 13 | 13 |
| 6 | Tokyo | 3 | 12 | 11 |
| 6 | Saga | 2 | 12 | 12 |
| 8 | Fukuoka | 4 | 9 | 8 |
| 9 | Nagano | 5 | 8 | 4 |
| 10 | Miyazaki | 2 | 6 | 6 |
| 10 | Okinawa | 3 | 6 | 5 |
| Nationwide | 68 | 227 | 212 |
上位に大分と佐賀と福岡が並び、青森、栃木、東京、長野が続きます。青森は清水森ナンバ、栃木は三鷹、東京は内藤とうがらし、長野は七味の産地と、これまで見てきた在来品種や加工の産地と重なる県が並んでいます。九州の青唐辛子の使い道としてはyuzu koshoがよく知られていますが、統計そのものには用途の内訳がないので、ここでは分布が見えるところまでにとどめます。
ししとうは、この統計には出てこない
念のため付け加えると、地域特産野菜生産状況調査の品目一覧に「ししとう」はありません。辛味種のとうがらしだけが香辛野菜及びつまもの類のなかに立っていて、ししとうや甘長は別の統計で扱われます。作物の分類も統計の分け方も、ししとうととうがらしを別のものとして扱っている、という点ではここまでの話と一貫しています。
乾燥と粉にすると、使い方がどう変わるか
最後に、原料として扱う側の話を書きます。国産の野菜と果物を乾かして粉にする受託加工をしている立場から、唐辛子を乾燥品やPowderにしたときに何が変わるかを整理します。
丸のまま乾かすか、挽いてしまうか
丸のまま乾かした唐辛子は、油に入れて辛さを移す使い方に向きます。途中で取り出せるので、辛さの入れ具合を後から調整できるのが利点です。刻めば辛さが出る速度が上がり、粉にすれば料理全体に均一に回ります。同じ原料でも、どの形で渡すかで使われ方がまるで変わります。
粉にする場合、粒度をどこに置くかが分かれ目です。細かく挽くほど辛さの立ち上がりは速くなり、色も均一に出ます。粗めに残すと、噛んだときに辛さの粒が当たる食感が生まれます。韓国の料理で粗びきと細びきを使い分けるのは、この差を利用しているからです。
辛さは原料の段階で振れるので、仕様を先に決める
辛さが遺伝と環境の掛け算で決まる以上、同じ品種でも収穫年や産地によって辛さは動きます。商品として辛さを一定にしたいなら、原料の段階で仕様を決めて、ロットごとに確認する手順を組んでおく必要があります。品種名だけを指定して辛さが揃うと考えると、切り替えのたびに味が動きます。
弊社が受けているのは、国産の野菜と果物の温風乾燥と粉砕です。粉砕は100メッシュ相当まで対応でき、10グラム以上の小袋充填、他のパウダーや塩、茶葉との事前ブレンドも承っています。フリーズドライ、焙煎、チップス、レトルト、香辛料そのものの製造は扱っていません。
乾燥品の賞味期限と保管
乾燥品の賞味期限は、出荷日からおおむね6か月を目安にしています。乾かした時点で水分は抜けていますが、粉にするほど空気に触れる面積が増えるので、香りと色は落ちやすくなります。小分けにして必要なぶんだけ開ける、開けたら早めに使い切る。扱いとしてはそれに尽きます。
唐辛子は色そのものが商品価値になる原料です。赤の鮮やかさを残したいのか、辛さを優先するのか。仕上がりのどこを守りたいかで、乾かし方も挽き方も変わります。
FOR BUSINESS
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国産の野菜・果物を乾燥し、必要に応じて粉砕してお出ししています。扱っている品目は100種前後で、規格は 乾燥品の一覧・パウダーの一覧 に掲載しています。
FAQ
Summary
唐辛子の種類を整理するときは、辛い順に並べる前に、呼び名がどの軸の言葉なのかを見分けるのが先でした。唐辛子は総称、鷹の爪は品種、青唐辛子は熟し方、なんばんは地方名。軸をそろえてから比べると、混乱していた言葉の関係がほどけます。
国の作物分類表では、甘長とうがらしが甘味種、とうがらしが辛味種と書き分けられ、ししとうはそのどちらとも別の独立した作物名として並んでいました。品種登録の書類では、辛さは数値ではなく「強」「無」「条件で発現」という段階で記録され、ししとうがときどき辛くなることも制度のなかに織り込まれています。
辛さの数値のほうは、もとが人の舌による希釈試験で、いまは機器で量って換算したものです。同じ品種でも育った条件で動くことは、測る側がはじめから認めています。だから数値は順序の目安として読み、原料として辛さを揃えたいなら品種名の先まで見に行く。それが実務上の結論です。
そして国内の辛味種は、令和6年産で作付面積68ヘクタール、収穫量227トン。清水森ナンバも香川本鷹も、種を産地が握って守っている品種でした。日本の唐辛子は、細く長く続いてきた作物です。名前の整理がついたら、次は産地で選んでみてください。
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