京野菜で紡ぐシーズナルコースの組み立て方
―夏の命を、涼やかに一皿に閉じ込めて―
東京・神泉で「ぽつら ぽつら」「うつら うつら」を営み、両店でミシュラン・ビブグルマンを獲得した料理人・米山有(ヨネヤマ タモツ)氏が綴るコラムです。夏の京野菜をどうコースに組み立てるか、その発想とこだわりをお伝えします。
夏の京野菜は特別な存在
夏の京野菜は、なんだか特別な存在です。
照りつける太陽の下、すくすく育ったその姿はどれも力強くて、でも、どこか涼やかで。
手に取った瞬間、すっと季節の空気が流れ込んでくるような、そんな気配を持っています。
お皿の上に季節をのせたい。
そう思ったとき、京野菜はとても頼もしい相棒になってくれます。
コースのはじまりに“涼”を添えて
夏のコースを考えるとき、まず頭に浮かぶのは“涼”という言葉です。
たとえば、はじめのひと皿。
冷たく仕立てた京トマトと加茂川茄子のピュレをお出しします。
完熟した京トマトは、ほんの少し塩をあてるだけで、驚くほど味が立ち上がります。
そこに軽く炙った加茂川茄子を加えてあげると、甘みや香ばしさが加わり、静かな余韻を残してくれます。
しっかり冷やした器で、ひんやりと。
ひと口目で、身体の奥からふっと熱が引いていく。
そんな一皿にしたくて、毎年この組み合わせを大切にしています。
軽快さと酸でつなぐ流れ
次の皿では少しテンポを変えて。
伏見とうがらしと鱧の白焼きを、すだちと梅肉でさっぱりとまとめます。
伏見とうがらしは、香りも味わいもこの季節ならでは。
じっくり焼くと甘みが増して、鱧の脂ともよく馴染みます。
この辺りの組み立てでは、酸の使い方がポイントになりますね。
さっぱりしているけれど、物足りなくならないように。
夏はどうしても食欲が落ちがちですから、香りや温度で軽やかに流れを作るよう心がけています。
伏見とうがらしの火入れと酸味の合わせ方
伏見とうがらしは170℃の油で30秒ほど素揚げすると、皮がパリッとしながら中はジューシーに仕上がります。すだちは搾るのではなく、皮を削って添えると香りが長く持続します。
梅肉は塩分濃度15%前後のものを少量使うと、鱧の脂と伏見とうがらしの甘みを引き締めつつ、夏らしい爽快感を演出できます。
メインを彩る賀茂なす
メインには、やっぱり賀茂なす。
夏の京野菜の代表格ともいえる存在で、育った時期によって味わいが変わるのがまた面白いところです。
8月の賀茂なすは特に香りが濃くて、とろけるようなやわらかさが魅力です。
私はそれを丸ごと炭火で焼いて、皮をむいて中のとろとろだけを取り出します。
そこに、九条ねぎを醤油麹オイルで和えたものをちょこんと添えて。
お肉もお魚も使っていないのに、まるで“主役”のような存在感が出るんです。
こういうお皿ができると、素材に教えてもらったなぁと嬉しくなります。
賀茂なすの炭火焼き|仕込みから提供まで
賀茂なすを丸ごと焼く場合、表面に数カ所切り込みを入れておくと均一に火が通ります。炭火で約20分、ときどき向きを変えながら焼き、竹串がすっと通れば完成です。皮をむくときは流水にさらさず、手でそっと剥くと香りが逃げません。
九条ねぎの醤油麹オイルは、九条ねぎの小口切り・醤油麹・太白ごま油を1:1:2で和え、30分なじませると風味が安定します。
余韻を残す締めの一皿
最後には、水茄子と甘長とうがらしのお浸しを。
あえて少し前菜のような立ち位置に戻ることで、体の火照りをもう一度落ち着かせてあげる。
夏の終わりに、風鈴の音がふっと鳴って、静かに風が抜けていくような。
そんな余韻を、料理の中にも残したいなと思っています。
お酒とのペアリング
お酒とのペアリングも、もちろん大切な要素です。
たとえば、京トマトと茄子の冷製には、ほんのり泡のある甲州のペティアンを。
トマトの甘さと茄子の香ばしさに、優しい酸と泡が重なると、すごく涼やかになります。
伏見とうがらしと鱧には、冷やした純米吟醸の生酒がぴったり。
梅やすだちと調和して、口の中がきれいに整います。
賀茂なすの炭火焼きには、ちょっと熟成したシャルドネや、コクのある山廃の純米酒。
なすのとろみと香りに、そっと寄り添ってくれる存在です。
夏の京野菜ペアリング早見表
京トマト+茄子の冷製 → 甲州ペティアン(泡・やや辛口)。伏見とうがらし+鱧 → 純米吟醸の生酒(冷酒)。賀茂なすの炭火焼き → 熟成シャルドネまたは山廃純米酒。水茄子+甘長とうがらし → ロゼワインまたは夏酒(低アルコール日本酒)。
京野菜と酒のペアリングについて、さらに詳しく解説した記事もあわせてご覧ください。
夏の京野菜と向き合う
夏の京野菜は、どれも生命力にあふれていて、でも押しつけがましくない。
まっすぐで、素直で、透明感があって。
だからこそ、私たち料理人は、手を引きすぎず、寄り添うように使っていく。
「涼しくて、元気が出る」。
そんな夏のコースを目指して、日々、野菜と向き合っています。
シーズナルコースを組む3つの基本原則
コースの構成で意識したい原則は3つあります。第一に「温度の起伏」。冷製で始め、温菜で盛り上げ、再び冷たい一皿で締めると、体感のリズムが生まれます。第二に「食感の変化」。とろける賀茂なすの後にパリッとした伏見とうがらしを挟むなど、食感で飽きさせない工夫が大切です。
第三に「酸・甘・苦のバランス」。コース全体で酸味・甘味・苦味が偏らないよう配分し、お客様の味覚がリセットされるタイミングをつくります。香りの演出を加えると、五感すべてに訴えるコースに仕上がります。
家庭で楽しむ夏の京野菜ミニコース
家庭でも3品の小さなコースを楽しめます。前菜に京トマトのすり流し(冷製)、主菜に万願寺とうがらしと鶏むね肉の直火焼き、締めに聖護院かぶらの浅漬けポン酢和え。調理時間は合計30分程度です。
乾燥京野菜を常備しておけば、冬場でも夏の京野菜コースの余韻を再現できます。
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