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旭川の規格外ジャガイモ11万トンをアイスに——酪農の危機と廃棄野菜をつなぐ地域再生プロジェクト

2026年4月1日、北海道旭川市に拠点を置くいろえんぴつ株式会社が、旭川駅前への「世界中から人が集まるアイス屋」出店計画を発表した。一見するとユニークな飲食店開業の話に見えるが、その背景にあるのは深刻な問題だ——上川管内で年間約11万1,000トンにのぼる規格外ジャガイモの廃棄問題と、担い手不足に瀕する酪農業の危機だ。食品ロス削減と地域農業の再生を、アイスクリームという身近な商品で結びつけようとする挑戦が始まった。

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上川管内だけで年間11万トンが廃棄——規格外ジャガイモ問題の深刻さ

北海道の上川管内(旭川周辺)は、北海道有数のジャガイモ産地だ。しかしその産地で、主要農産物であるジャガイモの年間生産量の実に35.4%、約11万1,000トンが「規格外」として市場から排除されている。

規格外とは、形や大きさが市場の基準を満たさないもの、傷がついているもの、小玉すぎるものなどだ。味や栄養価に問題はない。しかし農家はこれらを廃棄するために、1kgあたり最大70円もの費用を支払うケースもあるという。収穫した作物に費用を払って捨てる——この逆説的な現実が農家経営を直撃し、離農加速の一因ともなっている。

全国的に見ても規格外野菜の廃棄量は年間約200万トン(2020年度推計)に達するが、農林水産省が公表する食品ロス統計にはこの数字が含まれていない。「隠れた食品ロス」として問題が過小評価されがちな現状がある。規格外野菜とフードロスの関係については、長年にわたって議論されてきた課題だ。

酪農の危機:後継者不在と乳価問題

いろえんぴつ株式会社の代表・大田原裕希氏の妹夫婦は、北海道幌延町で地域おこし協力隊を経て、2025年12月に牧場を継承した。後継者不在で廃業の危機にあった牧場を引き継いだケースだ。

日本の酪農業は構造的な危機に直面している。飼料高騰、乳価低迷、後継者不足が三位一体となって経営を圧迫し、全国の酪農家数はこの10年で約30%減少した。北海道も例外ではなく、廃業牧場の増加が地域経済にも深刻な影響を及ぼしている。

こうした背景から生まれた発想が「地元の規格外野菜と酪農乳を使ったアイスクリームを旭川の観光スポットで提供する」というビジネスモデルだ。

アイスクリームが架け橋に:廃棄食材の付加価値転換

廃棄コストを払って捨てられる規格外ジャガイモを、アイスクリームの素材として活用すれば、廃棄コストゼロどころか購入代金として農家に収益が生まれる。さらに地元酪農家の生乳を使うことで、酪農経営の安定化にも貢献できる。

旭川は北海道内陸部の中心都市であり、旭山動物園を擁する観光地でもある。駅前という集客力の高い立地でユニークなコンセプトのアイス屋を展開することで、観光客を通じて「規格外野菜×酪農×北海道」のストーリーを全国・世界に発信する狙いがある。

規格外野菜をビジネスに活かす方法は乾燥野菜や野菜スナックなど加工品への転換が代表的だが、アイスクリームという形での活用は消費者へのアピール力が高く、「食品ロス削減」を押しつけがましくなく体験してもらえる手法だ。

地域再生モデルとしての可能性

いろえんぴつ社はこのプロジェクトを3つの夢として掲げている。①規格外農産物の廃棄ゼロに向けた新たな販路開拓、②担い手不足の酪農家支援、③旭川の観光・地域経済の活性化だ。

この取り組みが注目に値するのは、補助金に依存した一時的な支援策ではなく、持続的なビジネスモデルとして設計されている点だ。農家は廃棄コストをなくし、酪農家は販路を確保し、消費者は地元産の魅力的な商品を楽しめる。まさにWin-Winの構造を食品ロス削減の分野で実現しようとする挑戦だ。

同様の発想は全国各地で芽生えつつある。規格外野菜を使ったレストランや惣菜店、クレヨンや化粧品への転換など、「廃棄野菜を美しい商品に変える」アップサイクル産業が成長中だ。旭川のプロジェクトはその中でも、観光業・酪農・農業を複合的に結ぶ特異な事例として全国のモデルとなりうる可能性を持つ。

「隠れた食品ロス」に光を当てる必要性

規格外野菜の廃棄は農林水産省の食品ロス統計に含まれない「隠れた食品ロス」だ。日本が掲げる「2030年までに食品ロスを半減」という目標の達成には、この見えない廃棄をどう減らすかが重要な鍵を握る。

いろえんぴつ社のプロジェクトは現時点ではクラウドファンディングや事業計画の段階だが、こうした地方発の創意工夫が食農SDGsの実践モデルとして育っていくことが期待される。農業の持続可能性を担うのは、政策や補助金だけでなく、こうした民間のアイデアと挑戦だ。

世界規模で5,400億ドルとも試算される食品廃棄コストの削減に向けて、日本の地方農業が示す答えは「廃棄を価値に変える発想の転換」にある。旭川から始まるこの小さな挑戦が、日本の農業・食品ロス対策に新たな風を吹き込むことを期待したい。

出典:いろえんぴつ株式会社プレスリリース(PR TIMES、2026年4月1日)時事ドットコム(2026年4月1日)

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この記事を書いた人

小島 怜のアバター 小島 怜 Agriture CEO

株式会社Agriture CEO/乾燥野菜やドライフルーツを中心とした受託加工・OEM事業。京都府内の農家と連携し、規格外野菜の活用や6次産業化支援を通じて、「持続可能な食の流通」を追求している。製造現場での豊富な実体験を活かし、商品企画から試作、小ロット対応、パッケージ設計、販路開拓支援まで、OEMを検討するすべての事業者に伴走するサポートを提供。

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